06:NHK奈良局制作・放送『技なび』 番組取材参加レポート ・・木村美知子(実践修理科)

植物の緑色が煌めくように清々しい5月。のはずなのに、朝から薄曇りの5月10日水曜日:午前10時、私を含む有志参加の教室生7名がアトリエに大集合。


既に撮影態勢モードであった板倉先生は、パリっとした襟の白いブラウスに、胸元からは個性的なデザインのネックレス、頭の上に載せた眼鏡といった着飾りすぎない知的な上品さと、革ベルト風肩ひものマスタード色のエプロンが上手く包み込んだといったいでたちで、撮影バッチリのスタイリング。かねてから打診のあったというNHK奈良の取材、匠の技を紹介するコーナー番組『技なび』の中で書物修復技術と先生を取り上げるということだけで、詳しくは始まってからのお楽しみ。取材陣の到着を待ちながら全員で雑談をしながら待つこと約10分、担当記者さん・メインカメラマン・アシスタントの3人様が到着。既に2回の打ち合わせ済みとあり、簡単な挨拶と進行の確認の後、速やかに撮影モードへ突入。外から覗いたアトリエの様子などを収めてから、いよいよアトリエ内へ。


この日は講義・技術指導シーンと先生のインタビューが中心とあり、早速教室生への指導や講義シーンの撮影に。ひとつのテーブルに全員が肩を寄せ合い、雑談のような自然な口調で修復対象の本について解説する先生の話しを聞き入っていると、”毎度お馴染み”の製本様式から製作年代を特定する出題に一瞬沈黙する一同に、間髪入れず先生から落第宣告をされるといった、思わず皆で苦笑や言い訳?をする場面も。”こんな場面を写されたら…”と思っていると、すかさず記者さんから今のシーンの再現要請があり、再び製作年代の質問開始。問題の”沈黙”シーンでは、優秀な?!教室生らしく何とか製作年代を特定し、無事乗り切りました。

その後、確認・打ち合わせのための約1時間中断の後、修復作業指導シーンで撮影再開。一番目に指名された私は、先生からクリーニング要領の指導を受けるといった役。頭の斜め上にあるカメラを意識しながらひたすら聞き入り・頷いていると、左のこめかみ付近から一筋の冷や汗?が。汗が写らないようにと思うと余計に汗が流れそうになり、内心1人焦り気味。あと2名分の指導シーンと、思わず引いてしまいそうになる程の接写で作業のクローズアップ等を撮り、午前の部の撮影が終了。午後からはいよいよ先生の単独インタビューへ突入。いつもの修復作業に没頭中の教室生・講師陣数名を傍らに、「ご主人との出会いについて?」と、いきなりそんな話しをふられそうになった先生はさらりとその質問をかわし、記者さんとのやりとりの中、製本を学び始めた頃の話しから今の仕事についての話しに及んでいきました。

そんなインタビューの様子を眺めつつ、テーブルの上に置かれた撮影用に準備された数枚の写真に目をやってみると、スイス製本学校留学時の同期生との集合写真やアトリエ内で作業に取り組む先生の姿、資料写真を屋外で撮影している同期生の様子など、こんな事でもなければお目にかかることのない写真ばかり。また別の待ち時間の間では、技術解説の絵入り、英語やドイツ語混じりでびっしりと丁寧に記録された留学当時の学習ノートも拝見。当時の先生の勤勉さが目に浮かんでくるような密度でした。

先生へのインタビューは、私たち教室生が帰った後の夜7時まで続いたとのことで、修復技術シーンの撮影は別の日へ。日が跨がっても同じように見えるよう、次の時もまったく同じ服装であること、アトリエ内の配置を絶対に変えないように言い渡されたり、外の様子がカメラに写り込まないように外の景色を入れないなど、裏話としてちょっと興味深い後日談も。残りの取材は5/18に、修復本活用実例現場としての近畿大学図書館を5/20、に修復作業工程の撮影で全てが終了。

5〜8分間のコーナー番組と言えども事前打ち合わせ2日、トータル撮影日3日間。取材される側の仕事がかなり制限される程の準備と時間をかける体制に、”時間や予算の使いすぎでは?”と、意地悪なツッコミをしてしまいそうな気分も、撮影が進むにつれて消滅。当初皆無であったという修復に関する知識は、取材当日を迎えた今日では主な工程を把握、名称などもしっかりと駆使し、どの様に修復過程を番組として組み立てるのか等を段取りしながらインタビューを進める担当記者さん。技の凄さを映像で伝えるためのアングルが決まるまで、記者さんと対等の立場でこだわり続けるカメラマンの姿など、その場に居合わせないと知ることなかったNHKの綿密な取材姿勢を拝見することが出来ました。

その結果としての番組は、5/24(水)に無事放送。録画していた教室生より借りて観た内容は、膨大な映像の中から厳選された映像が繋ぎ合わされ、次々変わる画面を追っているうちに番組が終了。それでも出来る限り端的に書物修復の過程を説明しながら、先生の紹介といった両方の要素を詰め込んだ内容は、記者さんの誠実さ・奮闘ぶりが伺えそうな程。取材に参加した身としてはついつい過剰な想像をしてみたり、撮影された場面の数と実際に採用された映像とを比較しながら、教室生の反響も様々な様子です。

奈良地区メインの関西エリア限定とは言え、そこはやはり「NHK」。先生の存在とアトリエ、しいては書物修復の世界を不特定多数の人にアピール出来たことが最大の収穫だったようで、放送直後からその反響は徐々に出てきているようです。

(本番組は、5/25に大阪や加古川などでも順次放送となりました)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA