「The Bone folder” 第4回」
AND A WELL-VERSED-IN-ALL-ASPECTS-OF-THE-CRAFT-BOOKBINDER
~書物の美に惹かれる愛書家とあらゆる製本技術に精通した製本家との対話~
火曜日:装飾紙と革についての問答 (後半)
製本家:革の種々雑多な名付け方こそ、まさに神秘と言うべきでしょう。しかし実の所、この神秘はあまり好ましいものではありません。
ヤギ革
ヤギ革のしぼ
しかし今挙げた3種類の革は、アフリカでなめし加工をされるわけではないのです。皮の状態で保存したものがヨーロッパに輸出されて、なめしはヨーロッパで行われています。美しいモロッコ革といえば、かつては専らイギリスかフランスで加工されたものでしたが、ここ数年でドイツでもいいものができるようになりました。フランスからも注文が来るほどです。もしかすると我々はそんなふうに輸出したものを、フランス製のモロッコ革として、そうとは知らずに逆輸入しているかもしれません。それほど高級ではない製本用革としては、東インド・サフィアンというのがあります。また、いわゆる”バスタード・レザー”として知られる革、東インドヤギと羊の雑種から作られる革で、しぼをエンボス加工で付けていることが多いものですが、これは製本には向きません。それから、羊革も製本には避けた方がいいですね、特に薄いへぎ皮を原料としたものは。そういうものを使うと、つくりが紙製本よりも脆弱になってしまいかねません。
愛書家:革の名前の混乱についておっしゃいましたね。僕にもついこの間、こんなことがありましたよ。ある本屋が僕にシャグラン革で装丁した本を見せてくれたんですが、その本屋ときたら、シャグランというのは動物の種類だと思っていて、しぼのつき方を指しているとは全然知らなかったんです。
製本家:まったく、革の名前というのは本当に厄介です。エクラゼ革(=潰す)というのは単にしぼを潰して磨いた革ではなく、しぼを潰したモロッコ革のことです。加工の仕方としては、イギリスとフランスで採用されているやり方が断然いいですね。革全体を機械でプレスして磨くのではなく、製本が済んでから、磨いた鋼鉄製のアイロンでつや出しをするのです。この他に非常に美しい革として挙げられるのは豚革ですが、これは小さな毛穴が空いているので見分けがつきやすいです。豚革のクリームがかった色合いは年月とともに風格が出て来て、本に古風な趣を持たせてくれます。表紙に空押しが施されている場合などは特にそうですね。空押しについては、また後ほどお話します。ミョウバンなめしの白い豚革も、製本ではよく使われます。
豚 革
表紙に貼った状態の豚革。毛穴が目立つ。
牛 革
羊 革
愛書家:なめした人の皮って、どんな感じなんでしょう?
製本家:豚革に似ていますが、もう少し灰色がかっています。ヴェラムについても申上げておきますと、現在製本に使われているものは、豚よりも羊か子牛から作られたものが主流です。羊革は子牛革ほど丈夫ではなく、ヴェラムにした場合でも同じことが言えます。また、ヴェラムは普通の革と比べると非常に高価です。
愛書家:黄色味を帯びてまだらになった、趣のある素敵なヴェラムもありますよね。ああいうのはどんな動物の皮を使ったらできるんですか?
製本家:羊か子牛でしょうね。ご承知の通り、ヴェラムはなめしをしていない皮で作ります。まず脱毛して、フレームに張り、余分なものきれいに掻き取るのです。この段階では、皮の自然な色合いがそのまま残っています。白いヴェラムを作る場合は、皮をさらに軽石でこすり、チョークの粉をすり込みます。革やヴェラムが尊ばれるのは、単に丈夫だからというだけではありません。これらの上に金箔押しをすると、素晴らしい輝きを見せるからです。これについてはまた別の機会にお話しなければなりません。
愛書家:では、今日はここまでにしておきましょうか。明日は製本していただく本を何冊か持って来ます。
2010年(c)Peter D. Verheyen翻訳
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