「The Bone folder” 第3回」

A DIALOGUE BETWEEN AN AESTHETICALLY-INCLINED BIBLIOPHILE
AND A WELL-VERSED-IN-ALL-ASPECTS-OF-THE-CRAFT-BOOKBINDER
~書物の美に惹かれる愛書家とあらゆる製本技術に精通した製本家との対話~

火曜日:装飾紙と革についての問答 (前半)

愛書家:おはようございます、マスター!昨日は一晩中、あなたの骨べらの夢を見ていたんですよ。骨べらの奴、若い徒弟の格好をして、山積みの本の上に腰掛けて、僕のことを笑ってるんです。というのも僕が夢の中で、もうすっかり一人前の製本家になったつもりでいたものですから。今日は何冊か本を持って来ようかと思ったんですが、やめておきした。技法や素材について、僕とあなたとの間で合意ができてからにした方がいいでしょうからね。さて、今日はどんなお話からですか、マスター?

製本家:昨日も少しだけ触れましたが、今日は装飾紙についてお話ししましょう。装飾紙は紙製くるみ製本では表紙に、そして総クロス製本、総革製本では見返しに使われます。あなたがご自身の蔵書に使いたいと思われる装飾紙もたくさんあるはずですよ。恋に落ちてしまうほど魅力的なものもね。しかし全ての装飾紙についてご説明することはできません、作っている工房も多いことですし、新しい商品がどんどん出て来ますから。装飾紙専用の工場まであるほどです。そして男女を問わず数多くの芸術家たちが、書物を包むための素晴らしく色彩豊かな装飾紙を制作しているのです。

製本業界で使われて来た伝統的な装飾紙、中でもマーブル紙は、今ではもう時代遅れになってしまいました。あなたは現代の製本に親しんでいらっしゃるから、この点については頷かれるでしょうね。それでも、マーブル紙がどうやって作られるかをご説明すれば、きっとあなただって興味を持たれると思いますよ。
マーブリングをするには、まず長方形の亜鉛製バットを用意して、この中に粘性のあるサイジング液を注ぎます。サイジング液の最良の原料はカラジーンという海藻で、アイルランド沿岸で採れるのでアイリッシュ・モスとも呼ばれる、薄黄色、または灰色がかった色合いの藻です。それからサイジング液の上に手ぼうき状の道具を使って色剤を振りまくのですが、この色剤には、広がりをよくするために牛脂を少し加えておきます。牛脂の代わりにせっけん液や蒸留酒も使えます。

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『百科全書』(1768年)より、マーブル紙工房の様子。中央の職人はコームを引き、その隣の職人は模様を紙に写し取ろうとしている。

マーブリングの様式は実にさまざまです──製本家にとって、マーブル紙というのは単なるマーブル(大理石)の模倣ではなく、ありとあらゆる素晴らしい色彩とパターンを意味するものなのですよ。色剤をサイジング液の上に散らしたら、そこに先の尖った棒で波模様を描きます。それからコーム(厚紙や木片に等間隔で針を並べた道具)をそのサイジング液に差し入れて、模様を作ります。コームには針が二列に並んだものもあります。片方の列がスライドするようになっていて、コームを引いている間、その部分が左右に揺れるわけです。この動きによって、コームド・パターンと呼ばれるデザインを作ることができます。

tue1-2_marbling2 色剤を散らす
棒で模様を描く
コームを引く

 

次に、サイジング液の上に慎重に紙を置きます。それから紙を持ち上げると、デザインはもはやサイジング液の上にはなく、紙に写し取られているのです。同じようにして、本の小口にマーブル付けすることもできます。同じようにと言ってもその場合は、本を小口とぴったりの高さに揃えた締め板の間に挟んで、サイジング液の表面に慎重に付けるのです。この方法を採れば、見返しと小口を同じ色彩とデザインにすることができます。

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『百科全書』(1768年)より。左端の職人は本の小口にマーブル付けをしている。
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小口マーブル本

 

愛書家:そういう紙なら僕も見たことがありますよ。空に浮かぶ雲みたいだっていつも思っていました。色やパターンが雲のように動いて移り変わっていくのを想像しながら、いつまででも眺めていられます。

 

 スプリンクルドペーパーというものもあります。紙を吊るすか斜めに置いた状態にしておいて、その上に色剤を振りまくのです。このやり方ですと、色剤は自然に流れ落ちて互いに混ざり合うことになります。
今はバチック染めの技術を援用した装飾紙も流行していますね。私が聞いた所によれば、この技術はジャワ人から教わったものなのだそうです。バチックペーパーを作るには、まずは手描きで、あるいは機械を使って、紙にロウで模様を描きます。ロウで覆われた部分には色がつきませんから、それによってデザインがつくられるわけです。その紙をくしゃくしゃにして着色すると、ロウがひび割れた部分から色がしみ込みます。こうしてバチックペーパー特有の、背景色から浮き上がったような細かい筋模様が出来上がるのです。
tue1_deco_paper1 1856年ベルリン出版の本に使われている装飾紙
1856年 ベルリン出版の本に使われている装飾紙

 

 しかし、流行は巡るものです。装飾紙の中でも最も歴史が古いもののひとつに、ペーストペーパーというものがあります。糊と色剤、この色剤にはたいてい顔料が使われますが、これらを混ぜて、紙の上に塗ってデザインを作るのです。ひとたび色剤を塗ってしまえば、指でそれを拭い取ってリボン状の模様を描いたり、コルク片で水玉を描いたり、木片や何かで円や線を描いたりと、さまざまな模様や効果を作り出すのは簡単です。
tue1_deco_paper2 1928年シュトゥットガルト出版の本に使われている装飾紙
1928年 シュトゥットガルト出版の本に使われている
装飾紙

 

 新しい技法としては、装飾を彫り込んだローラーやリノリウムの板、それから筆やその他の道具を使うやり方があります。道具に制限はありません。表現主義ペーパーなんてものもありますよ。それはもう、ワイルドなもので(皮肉な笑い)。もしかすると、それゆえにこそ紙製くるみ製本の表紙としてお選びになるかもしれませんが。
tue1_deco_paper3 1927年ライプツィヒ出版の本に使われている装飾紙
1927年 ライプツィヒ出版の本に使われている
装飾紙(ペーストペーパー)

 

愛書家:(笑い)僕のことをよくお分かりですね。今お話に上がった色々な紙のサンプルをいただけませんか。家でそれぞれの紙に合うような本を選びたいので。どの装飾紙もすごく雰囲気があって、心に訴えて来ますね。それぞれにふさわしい本が見つけられそうです。サンプルとにらめっこで、じっくり選んで来ます。書物に対する僕の情熱には、製本への愛も含まれていますからね。お気に入りの本をどうやって製本してもらうか考えるのは、僕の大好きな遊びなんです。それに、お金をけちったりもしませんよ。予算が許せば、あなたの愛する革製本を依頼するつもりです。しかしまずは革の神秘について、僕に教えていただけませんか。

原著は1922年『Der Pressbengel 』のタイトルでベルリンのEuphorion出版より刊行された。
2010年(c)Peter D. Verheyen翻訳

 


 

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