「The Bone folder” 第2回」

A DIALOGUE BETWEEN AN AESTHETICALLY-INCLINED BIBLIOPHILE
AND A WELL-VERSED-IN-ALL-ASPECTS-OF-THE-CRAFT-BOOKBINDER
~書物の美に惹かれる愛書家とあらゆる製本技術に精通した製本家との対話~

月曜日:製本をめぐる問答 (後半)

愛書家:マスター、ちょっとよろしいですか。偽の背バンドというのは誤摩化しですし、職人技への裏切りではないでしょうか。だって、偽物なんでしょう。

mon10_falsebands1 偽の背バンドの例.
mon11_falsebands2 偽の背バンドの例
偽の背バンドの例。コードの位置と背バンドの位置がずれており、本数も異なる。

 

製本家:これの利点と欠点については延々と議論することもできますがね。結局こういうことなのですよ、私自身はハイレベルな製本を愛しておりますが、顧客の皆さんはそこまでお金を出そうとは思わない、と。とはいえ、こうした技法の単純化は必ずしも構造的な強さを損なうものではありませんから、偽物だからといって、レイズドコードのように見える魅力的な外観をあえて退ける理由はないと思いますよ。もちろん、もし依頼主が本物のレイズドコードをお望みで、それだけの金額を払うのも厭わないという場合には、私は多いに喜んでご注文に従います。ともあれ、先へ進みましょう。

 まず折丁の背を分割して、コードを配置する場所を決めます。コードは5本で、偽の背バンドがその真上に来るのが普通です。もっと小さい本やより簡易な製本の場合は、コードを3本か4本に減らします。コードに加えて、本体の背の上下__我々は天地と呼びますが__から少し離れた所で、綴じ糸をケトルステッチにします。綴じ糸はこのケトルステッチの部分で、[訳注:ケトルステッチを連ねることで]鎖の連なりのように見えるリンクステッチとなって、折丁同士を繋ぐことになります。次に折丁の背にコードを埋め込むための鋸目を入れます。
mon12_kettlestitch ケトルステッチ
ケトルステッチ

 

愛書家:何ですって、本文紙に鋸目を入れる?紙にノコギリで切り込みを入れるんですか。ちょっと荒っぽくありませんか?紙は木材じゃないし、あなたは大工さんでもないのに!マスター、僕の愛書家としての良心はそんなことには耐えられません。

製本家:ええと、つまりこういうことです。ヤスリで深く切り込みを入れるような仕打ちをする人も中にはいますが、そんなのはともかくとして、背にほんの少しの切り込みを入れるだけなら、特に問題があるとは私は思いません。それに、よりをほどいて平らにした麻紐を使えば、上に革をかぶせた時に目立ちませんから、本体の背に切り込みを入れるのは避けられます。もしお望みなら、あなたの本は平らにしたコードに綴じ付けることにしましょう。本物のレイズドコードにするなら話は別ですが、その場合はもっとお金がかかります。

 

愛書家:僕の本にノコギリを近づけないでいてくれるなら、お金は喜んで払いますとも。

 

製本家:折丁を綴じるには綴じ台を使います、製本そのものと同じくらい長い歴史を持つ道具ですよ。ほら、これが私の綴じ台です__この板に折丁を乗せて綴じて行きます。手前にネジ溝が入ったダボ[訳注:木材同士を繋ぐ木の棒]が立っていて、その上の方には横木が渡してありますね。この横木の隙間の所にフックを固定して、コードの端を引っ掛けておくのです。綴じの間、コードがピンと張った状態になっているようにね。その真下、折丁を置く板の下に見えている金具は、コードの反対の端を固定するためのものです。綴じはたいへん重要な行程です。

 スタートは最後の折丁(後ろ側の見返し)からで、折丁の背のケトルステッチをする部分から綴じ針を内側に差し込み、最初のコードの所で背側に出して、コードを跨ぎ、また折丁の内側に差し込んで、次のコードも同じように跨ぎ、反対側のケトルステッチ個所までたどり着きます。それから次の折丁を重ねて、さっきの行程を繰り返します。折丁同士を[訳注;ケトルステッチで]きちんと繋ぐことを忘れずに。綴じが終わったら、コードを背の両側から数センチ出た状態で切ります。切ったコードの端はほぐして広げ、見返しに貼った保護紙の上に貼付けておきます。次に見返しの折丁に細く糊を塗って、隣の折丁に接着しておき、最後に本体の背全体を糊で固めて、ハンマーで丸み出しをします。
mon13_sewingframe 綴じ台
綴 じ台

 

愛書家:丸み出しって、必要なんでしょうか。半円形に丸まった背は本全体の外観を損なってしまうと、僕は思うんですが。角背の方がヒラの直角とよく似合いますよ。僕の本はみんな角背がいいな。

ライン

製本家:それでしたら、あなたは蔵書を長い期間にわたって愛でることはできなくなるでしょうね。私の経験から申しますが、角背の本というのは時とともに本体の背がくぼんで、折丁が前小口側に飛び出てしまう傾向があるものです。これはみっともないものですよ。ひとつ妥協できませんか?半円形になるまで丸くはしませんが、折丁が飛び出して来ないように、ほんの少しだけ丸みをつけることにしては。背に軽い丸みのある本というのは、決してみっともないものではありません、この点は私が保証します。

 

愛書家:なら、そうしてください。プロの専門知識と愛書家の理想を結びつけることができてよかった。言ってみれば政略結婚という格好ですね。

 

mon_14backinghummer バッキングハンマー
バッキングハンマー

製本家:では、お次はバッキング、本体の構造的統合のためには最も重要なステップのひとつです。これはもっと詳しくご説明する必要がありますね

 始めに本をバッキングプレスに戻します、ただし今回は2枚の締め板の間に挟んで。背は締め板から数ミリ出した状態にしておきますが、どのくらい出しておくかは、製本様式や表紙ボードの厚みによって決まります。それからプレス機を固く締め、折丁が締め板側に傾くようにバッキングハンマーで本の背を叩きます。この飛び出た部分のことを、我々は「耳」と呼んでいます。ここに表紙ボードがぴったり納まるようにするわけです。ハンマーを使う前に、背固めに使った糊を柔らかくするための糊を背に塗っておきます。折丁をよりスムーズに形作って、最終的な形に持って行くことができるようにするためです。バッキング後は再び背に糊を塗り、全体を平らにならして、プレスに挟んだまま一晩乾かします。一夜明けたら本をプレスから取り出し、裁断して、天金なり彩色なりを小口に施した後、表紙ボードを必要な大きさに切り出します。
mon15_backing バッキング
バッキング
 これで本体部分はおおむね完成です。次の手順としては表紙ボードを本体に取り付けて、上質な紙か革でくるむということになります。これについては、実際に本を持って来ていただいた時にお話しましょう。どういう製本スタイルを採るかによって、変わって来ることですからね。

 

愛書家:いや、本当にありがとうございます、マスター。あなたの熱心な弟子をお見捨てなきよう。では、また明日!

原著は1922年『Der Pressbengel 』のタイトルでベルリンのEuphorion出版より刊行された。
2010年(c)Peter D. Verheyen翻訳

 

 

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