「The Bone folder” 第2回」
AND A WELL-VERSED-IN-ALL-ASPECTS-OF-THE-CRAFT-BOOKBINDER
~書物の美に惹かれる愛書家とあらゆる製本技術に精通した製本家との対話~
月曜日:製本をめぐる問答 (後半)
愛書家:マスター、ちょっとよろしいですか。偽の背バンドというのは誤摩化しですし、職人技への裏切りではないでしょうか。だって、偽物なんでしょう。
製本家:これの利点と欠点については延々と議論することもできますがね。結局こういうことなのですよ、私自身はハイレベルな製本を愛しておりますが、顧客の皆さんはそこまでお金を出そうとは思わない、と。とはいえ、こうした技法の単純化は必ずしも構造的な強さを損なうものではありませんから、偽物だからといって、レイズドコードのように見える魅力的な外観をあえて退ける理由はないと思いますよ。もちろん、もし依頼主が本物のレイズドコードをお望みで、それだけの金額を払うのも厭わないという場合には、私は多いに喜んでご注文に従います。ともあれ、先へ進みましょう。
ケトルステッチ
愛書家:何ですって、本文紙に鋸目を入れる?紙にノコギリで切り込みを入れるんですか。ちょっと荒っぽくありませんか?紙は木材じゃないし、あなたは大工さんでもないのに!マスター、僕の愛書家としての良心はそんなことには耐えられません。
製本家:ええと、つまりこういうことです。ヤスリで深く切り込みを入れるような仕打ちをする人も中にはいますが、そんなのはともかくとして、背にほんの少しの切り込みを入れるだけなら、特に問題があるとは私は思いません。それに、よりをほどいて平らにした麻紐を使えば、上に革をかぶせた時に目立ちませんから、本体の背に切り込みを入れるのは避けられます。もしお望みなら、あなたの本は平らにしたコードに綴じ付けることにしましょう。本物のレイズドコードにするなら話は別ですが、その場合はもっとお金がかかります。
愛書家:僕の本にノコギリを近づけないでいてくれるなら、お金は喜んで払いますとも。
製本家:折丁を綴じるには綴じ台を使います、製本そのものと同じくらい長い歴史を持つ道具ですよ。ほら、これが私の綴じ台です__この板に折丁を乗せて綴じて行きます。手前にネジ溝が入ったダボ[訳注:木材同士を繋ぐ木の棒]が立っていて、その上の方には横木が渡してありますね。この横木の隙間の所にフックを固定して、コードの端を引っ掛けておくのです。綴じの間、コードがピンと張った状態になっているようにね。その真下、折丁を置く板の下に見えている金具は、コードの反対の端を固定するためのものです。綴じはたいへん重要な行程です。
綴 じ台
愛書家:丸み出しって、必要なんでしょうか。半円形に丸まった背は本全体の外観を損なってしまうと、僕は思うんですが。角背の方がヒラの直角とよく似合いますよ。僕の本はみんな角背がいいな。
製本家:それでしたら、あなたは蔵書を長い期間にわたって愛でることはできなくなるでしょうね。私の経験から申しますが、角背の本というのは時とともに本体の背がくぼんで、折丁が前小口側に飛び出てしまう傾向があるものです。これはみっともないものですよ。ひとつ妥協できませんか?半円形になるまで丸くはしませんが、折丁が飛び出して来ないように、ほんの少しだけ丸みをつけることにしては。背に軽い丸みのある本というのは、決してみっともないものではありません、この点は私が保証します。
愛書家:なら、そうしてください。プロの専門知識と愛書家の理想を結びつけることができてよかった。言ってみれば政略結婚という格好ですね。
バッキングハンマー
製本家:では、お次はバッキング、本体の構造的統合のためには最も重要なステップのひとつです。これはもっと詳しくご説明する必要がありますね
バッキング
愛書家:いや、本当にありがとうございます、マスター。あなたの熱心な弟子をお見捨てなきよう。では、また明日!
2010年(c)Peter D. Verheyen翻訳