「The Bone folder” 第1回」
AND A WELL-VERSED-IN-ALL-ASPECTS-OF-THE-CRAFT-BOOKBINDER
~書物の美に惹かれる愛書家とあらゆる製本技術に精通した製本家との対話~
月曜日:製本をめぐる問答 (前半)
愛書家:(製本家の工房を見回して)マスター、ここにある素敵な道具は何ですか。とっても危ない物のように見えますけど。
製本家:それはですね、危ないことは何もありませんが、製本家にとっては重要な道具です。ボーンフォルダー(骨べら)、と我々は呼んでいます。紙を折る時、折丁を作る時、背に補強の素材をしっかり貼付ける時、それから革やその他、どんな素材を扱う時にもこれを使います。こいつのおかげで、紙の束を一冊の本にまで仕上げることができるのです。いわば私の手の延長といったところで、よい職人技の価値というものをいつも思い出させてくれる道具です。もっとも今では、製本業はかつてのような輝きを持ってはおりませんけれども。
愛書家:まったくです、マスター。僕は愛書家として、仕上げのいい手製本の価値はわきまえているつもりです。つくりがぞんざいで読んでいる間にばらばらになってしまうような本なんか、みっともないですし、読んでも楽しくありません。反対に長持ちするようにきっちり製本された本は、僕を物語の中に連れて行ってくれますし、僕が読書に求める諸々の感覚を与えてくれます。もしよろしければマスター、あなたのお仕事について、僕に教えていただけませんか。どうか単なる好奇心でお訊ねしているとは思わないでください。それに、あなたから知識を盗むつもりは毛頭ありません。
もし僕が製本技術についての知識を持っていて、その上、技術的な複雑さを見極めることができるなら、僕はよりよい顧客になれると思うんです。書物を理解しない愛書家はつまらない品を買い求めるものだ、というのが僕の持論です。それに対して、本の中身だけに興味を持つのじゃなくて、1冊の本がどうやって作られるのか──製紙から背表紙のタイトル入れまで──を理解する愛書家は、自分がまさに身も心も打ち込んで求めた本を手にするんです。そういうわけで、あなたの仕事の秘密を手短に教えていただけないでしょうか。
製本家:それはやぶさかではありませんが、何もかもお教えするのは難しいですね。そうするためには3、4年の徒弟期間が要りますし、1人前の製本家になるには、そこから更に何年もの作業と経験を経なければなりませんから。製本家は1日にして成らず、です。こうしてはどうでしょう、まず最も重要な製本スタイルのいくつかを取り上げて、その構造については、あなたが頭の中で思い描くのに必要なだけの知識をお教えするというのは。あなたが特に興味を引かれた点については、ご自身の本を持っていらした時にお話しするということで。
愛書家:それで結構です。では、始めていただけますか?
製本家:では、紙製のケースバインディング(くるみ製本)から始めましょうか。表紙は紙製で、無地の場合も模様入りの場合もあります。この製本についてはまた後日に取り上げましょう。これは比較的簡易な製本の中では最も美しいスタイルですから、蔵書をこのスタイルで製本するようにというご依頼を、あなたから何度もいただくことになることでしょうし。
左:伝統的な表紙接続方法 右:ケースバインディング(くるみ製本)
愛書家:よく分かります。革が最も美しくてよい素材だとしたら、その他のあらゆる側面も、この高貴な素材の要求に従って作り上げなければなりませんものね。ノブレス・オブリージュ(高貴な者に伴う責任)か!
お分かりとは思いますが、製本の行程はいくつもの段階の積み重ねであって、ひとつの段階の上にまた別の段階を築き上げる、という具合に成り立っています。おしまいまで至れば、製本家が本文用紙を手にした時から、背表紙にタイトルを入れる瞬間まで──どう言ったらいいか──すべての行程が論理的な順番に沿って行われて来たということに、あなたもお気づきになるでしょう。つまる所、綴じの段階でひと針でも飛ばしてしまえば、すべては台無しになってしまうです。
ステープルで綴じられた本
フィニッシングプレス
レイズドコードの構造
2010年(c)Peter D. Verheyen翻訳