レポートVol.50 スイス・アスコナ講座(講師研修)報告
スイス・アスコナ講座(講師研修)報告 岩渕しのぶ
2012.11.19~23、スイス.アスコナでの修理講座に講師研修として参加しました。 クロス装本及び革装本の修理という内容で、受講生は男性4人、女性3人、それぞれ 図書館・美術館で修理に携わっている方、製本をベースにしながら修理技術の習得をめざす方など私たち日本からの参加も含め、スイス・ドイツといった国々の独、英、仏語が飛び交う授業でした。 以下、5日間の講座内容の報告です。 | |
コース:Repairs and simple restoration procedures on books 期間:2012.11.19~23 講師:Franziska Richter |
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Ⅰ 講 義 | |
・製本の歴史 ・冊子体の形態、構造の変遷 ・冊子体の構造上の弱点 ・修理本の状態の分析 (1) 紙 使われている紙の状態及び汚れ、破れ等 (2) 綴じ 綴じの方法 状態 (3) 見返し 表紙ボードとの結合の具合 ノドの状態 (4) 表紙 ボード、クロス、革及びミゾの状態 (5) 背表紙 表紙ボードとの結合、天地の状態 (6) 背張り、クーター、花布の確認 ・ドライクリーニングについて 道 具:ブラシ 刷毛 消しゴム パウダー(消しゴムの粉) スポンジ2種(化粧用のきめの細かい物) 注意点:本に負担をかけないように開き具合をサポートする事 |
II 修理技法 | |
1 ノドの修理 (見返しと表紙ボードの結合が割れている場合) ・材料:和紙でんぷんノリ レーヨン紙 ホリテックス(ノリがつかない為のシート) 水取り紙 ・2種の方法 (A) 寸法を決めた水切り和紙を遊び見返し側に5ミリ程度貼り乾かす (B) 表紙ボードのゆがみを調整し位置を決める。 (A)(B) とも貼り見返しがはがれた所はノリで貼り戻す。ヘラ、ブラシを使ってミゾにしっかり入れ込む。10分位おいてやや乾いてからホリテックスをはさみ、閉じる。*(A)は初めての方法であった。ミゾの割れが深かったり不規則な場合は、和紙が見返しに5ミリ固定してあるのでミゾにしっかりと入れ込むことができた。 |
2 ミゾ(表紙側)の修理
・材料:和紙 ノリ 表紙ミゾの割れに和紙を貼る。色和紙でもよい。 |
3 背表紙の修理 (背表紙の片側がミゾから取れている場合)
・材料:背張り用布 和紙 ニカワ でんぷんノリ メチルセルロース ホリテックス(薄・厚) 水取り紙 (1) 背に貼られた紙、のり等を取り除く。取れにくい時はメチルセルロースを塗り柔らかくしてからとりのぞく。 |
(2) ニカワをぬり、背張り用布(エアプレインコットン)を背幅同寸に裂いて貼る。ブラシなどでしっかりたたく。しばらく落ち着かせてからノリを塗りヘラでこすりなじませる。もう一度ニカワを塗る。(3)ホリテックスをはさみこむ形で和紙でクーターを作る。ホリテックスを中にはさんだまま背にはる。ウエイトを置いてしっかり固定する。
(4) 表紙ボードのクロスをスパチュラ・メスなどで上げて和紙を入れ込む。乾いてからクロスを貼り戻す。背側の和紙をクーターに貼る。背表紙ボードをはり戻す。包帯で巻いて固定する。 |
(5) 乾いたら隙間を和紙で補強する。画集などの大きく重い本は和紙でなく布を使用する。 *背表紙が全部取れている場合は表紙クロス又は革を上げて新しい背表紙に付け替える。 |
4 背天地の修理 (背表紙が部分的に欠損している場合)
・材料:和紙 厚紙 革 (1)欠損部分をプラシートで型取りし和紙、厚紙を切り出す。 |
5 綴じの修理
・材料:綴じ糸 (1)機械綴じの場合 ゆるんだ丁の下の丁に綴じ穴を開け綴じていく。 |
6 ページ角のめくれや折り跡の修理
・材料:綿棒 プラスチックシート ホリテックス ゴアテックス布 水取り紙 (1)綿棒に水を含ませ固くしぼり、折り目をしめらせる。ホリテックス、水取り紙をあて、ウエイトを置く。 |
7 表紙ボー ドの コーナーの修理
・材料:でんぷんノリ ニカワ 厚紙 コーナーのボードが幾層にも割れている場合は、ノリ・ニカワを層に入れ込み固定する。厚みを出したい場合は厚紙をはさみ込みプレスして乾いたら表紙サイズに整える。 |
8 セロテープのはがし方
ドライヤーで温めながらゆっくりはがしていく。 |
9 ページの修理 ・材料:和紙 でんぷんノリ
(1)裂けたページは継ぎ目もスポンジでクリーニングしノリでつぐ。
ホリテックス 水取りを置いてウエイトでプレスする。
(2)切れ、欠損部分はサイズをはかり水切りした和紙を貼る。ホリテックス、水取り紙を置きプレスする。
III 受講の感想 修理に関しては教室で、または図書館でのマイスター講座での経験はありますが、言葉のハードルもあり不安を抱えての参加でした。
授業は先生のデモンストレーションを見て、与えられた修理のダミー本で実践し、持参した本の修理も同時に取り掛かって行くという進め方でした。材料、道具、装置などこちらとは違う物があり興味深く、又、修理のやり方も革装も修理するということもあって、より丁寧な印象をうけました。先生の授業の組立て方も明確でわかりやすく、受講生の皆さんの熱意にも驚かされました。どんどん質問しディスカッションしてく様子には、自分の仕事の対する誇りや向上心が感じられとても刺激をうけました。又、和紙への関心も強く、板倉先生が和紙の関して少し解説されました。私は何とかコミュニケーションをとろうと四苦八苦でしたが、板倉先生のフォローと、講師の先生はじめ皆さんの“何とかわかろう”という好意に助けられ5日間を終える事ができました。本当に良い経験になりました。ここで学んだ事を今後の修理に生かして行きたいと思っています。最後なりましたが、初めてのヨーロッパ、初めての講座参加で頼りない私にご一緒してくださった板倉先生にお礼申し上げます。
持参した修理本「メアリー・ポピンズ」の修理過程は完成次第報告したいと思っています。