「The Bone folder” 第6回」

A DIALOGUE BETWEEN AN AESTHETICALLY-INCLINED BIBLIOPHILE
AND A WELL-VERSED-IN-ALL-ASPECTS-OF-THE-CRAFT-BOOKBINDER
~書物の美に惹かれる愛書家とあらゆる製本技術に精通した製本家との対話~

木曜日:半革製本についての問答

愛書家:マスター、今日はこのバッハマンの本を製本していただこうと思って。参考図書ですから、紙製くるみ製本では長持ちしないでしょう。でもクロス製本には僕は魅力を感じませんし、総革製本は値が張りすぎますから、半革製本がいいかなと思っています。マスターは半革製本のことをハルプフランツバンド(Halbfranzband)と呼んでおられましたが、この”ハルプフランツ(半分フランス)”というのはいったい何なんですか?

 

製本家:背の部分だけを革で包んだ製本をするように、と命じた最初の人物こそ、フランス国王フランシス1世だったのですよ。あなたが総革製本の代わりに背革製本にしようと思われたのと同じ理由でね。あるいは、この製本スタイルの発祥の地がフランスだからこう呼ばれるのだという説もあります。

愛書家:このスタイルだと、くるみ製本よりも表紙と本体との接合が構造的にしっかりしたものになるんですよね。

 

製本家:そうです、お考えの通り、この製本ではくるみ表紙とは違うやり方で表紙を接合します。コードは数センチ残して切ってほぐし広げた後、表紙ボードの上に貼付けます。それからその上に保護紙を貼り、本を締め板で挟んでプレスで締めます。次に本体の背に丈夫な紙を2枚貼り、またプレスに戻して一晩乾かします。

 

愛書家:ひとつお尋ねしてもよろしいですか。その2重の背貼りというのは、背を丈夫にするのには役立つのでしょうけれど、背を固くしすぎて本が開きづらくなりはしませんか?手製本の本は開きが悪いことが少なくありませんけれど、僕の本はそんなことになってほしくないんです。

 

製本家:本が開いた時に水平になり、かつ開いたままであるべし、というのは非常によくある迷信ですね。どうしてもそういうものをご希望でしたら、耐久性の方については保証できかねます。綴じやその他の構造が緩くなっている必要がありますし、そうすると本自体は壊れ易くなってしまいますから。本当に水平に開く本というのは、重い紙を使った非常に大きな本だけです。スプリングバック製本の台帳のような。あなたは愛書家で、蔵書をご自分の子供のように愛しておいでなのでしょう?子供たちには最良のものを与えたいとお思いになるでしょう。本だって同じではありませんか?たとえ開いておくために手を添えておかなければならないとしても、きちんとした丈夫な製本の書物を手にする方がいいとは思われませんか?それに、子供に対して決して暴力を振るわないのと同じように、本に対してだって、無理矢理に開いて背を壊してしまうようなことはなさらないでしょう。

 

愛書家:マスター、あなたの論理は完璧です。今のお言葉をよく覚えておきますよ。もうひとつお尋ねしたいのですが。以前、知り合いの図書館員が、半革製本となるとドイツ人よりもフランス人の方がずっと上手い、と言っていたんです。

 

製本家:そのご意見は馬鹿げていますね。そうおっしゃったのは、おそらくフランスとドイツでは表紙ボードの取り付け方が違うからでしょう。

■ 先ほど、コードは表紙ボードの上に貼付ける、とご説明しましたね。フランスでは、コードをボードに突き通して固定するのです。ほら、パウル・ケルステンは『Exakte Bucheinband』の中でこう書いています。「フランス式のやり方で表紙を取り付けた書物の方が、ドイツ式のものよりも丈夫だと一般的に信じられているが、これは誤りである。表紙ボードは本体とコードによって接続されているのだが、私の長年の経験からして、破損が生じるのは常にミゾが破れるからであって、コードがボードに刺さっているか否かは関係ない…」 (原注: Kersten, Paul. Der Exakte Bucheinband. Halle (Saale): W. Knapp, 1923. Pages 22-23.)
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表紙ボードに突き通されたコード

 

愛書家:これについても、あなたのような知識と経験を持つ真の職人にかかっては議論の余地なしですね。

 

製本家:先へ進んでよろしいですか。次は厚紙で、本体の背と背革の間に位置する背貼りを作ります。この背貼りの上に、必要ならば偽の背バンドを糊付けします。それから、革の折り込み部分を漉くという、重要ではありますがやっかいな作業に取りかかります。革がボードの形にうまく納まり、みっともない出っ張りができないようにするためです。

■ その次は、本全体を革で包むという更にやっかいな作業です。これについてはもっと詳しくお話しましょう、レイズドコードにも関係することですから。この作業では、革がぴったり均一にレイズドコードに乗るように、バンドニッパーという道具が必要になります。それから天地の革の折り込み部分でヘッドキャップを作ります。きれいに形作られたヘッドキャップは真の製本職人の証しです。最後に、他の部分と一緒に漉いておいた革でコーネルを作ります。
thu2_band_nipper バンドニッパー
バンドニッパー

 

愛書家:どうか僕の本には革のコーネルを付けないでください。この製本ではコーネルを付けるのが伝統的なスタイルだということは知っていますけれど、僕には本の美観を損なうように思われるので。エレガントな長方形の装飾紙が、コーネルのせいで変な6角形になってしまうでしょう。コーネルがなければ、装飾紙は最大の効果を発揮してくれます。

thu3_coner 革のコーネル
革のコーネル

 

製本家:お望みの通りに。しかし、そういうことなら表紙の角を保護するために、紙製くるみ製本の時にご説明した、外から見えないヴェラムの補強材を使うことにしましょう。ヒラの部分の装飾紙にはどんなものを使いましょうか?

 

愛書家:これは参考図書ですから、表紙にも見返しにも、同じ丈夫な手漉き紙を使うのはどうでしょう。革の色合いが明るめにせよ暗めにせよ、それに似合う紙を選んでいただけるでしょうね。茶色のヤギ革なんていいんじゃないでしょうか?小口も同じ色にしてください。そうそう、忘れないうちに──この本、余白がとても少ないんです。だからあんまり裁断しないでください、カッコ悪くなってしまいますから。だけど全然裁断しないのも見栄えが悪いし、どうしたらいいでしょうね。

 

製本家:簡単なことです。ラフ・カットにしましょう。tranche ebarbeeとも呼ばれるやり方です。

 

愛書家:ああ、それです。何で思いつかなかったんだろう。

 

製本家:小口をラフ・カットにする場合は、ギロチンでいっぺんに切り落とすのではなく、折丁をひとつひとつ、ちょうど小口が揃うぶんだけ、ボードカッターで裁断していくことになります。なだらかにはなりませんが、これで小口を揃えることができます。もちろんこのやり方で裁断した場合は、小口に天金や色付けをするのは無理です。あるフランスの製本家が、かつてこう言っていました。ラフ・カットの秘密は、本の縦横の比率を変えることなく小口を揃えることにあるのだ、と。とはいえ、ラフ・カットは追加の作業ということになります。[訳注:そのぶん追加料金がかかる]ボードカッターで裁断する前に、折丁を開いて、どこでカットするのが一番いいかを見極めなければなりませんから。

 

愛書家:たぶん僕の大切な本のほとんど全部で、このやり方をお願いすると思います。

 

製本家:天側にもっと余裕のある本でなら、天小口の色付けや天金をしてみるのもいいと思いますよ。3方の小口を裁ち落としただけのシンプルな製本でも、天小口にのみ装飾を施すことがよくあります。それによって本体を埃から守ることができますから。

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愛書家:他に話し合わなきゃいけないことはあったかな?そうそう、今回の半革製本には、箔押し装飾は入れないでください。タイトルを金箔押ししてくれたら、それで充分です。

 

製本家:レイズドコードの上下に金のラインをいれるというのはどうですか?

 

愛書家:それもない方がいいです。僕はレイズドコードのそのままの外観が好きですから、ことさら目立たせる必要はありません。もっと大きい本を半革で製本する時には、背表紙の天地に線を入れていただくかもしれませんけれど。

 

製本家:装飾紙と革とのきわの部分には、金のラインを入れましょうか?

 

愛書家:それはケース・バイ・ケースですね。革と装飾紙がきれいなコントラストになっているものでは必要ないと思います。それ以外でしたら、反対はしません。

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製本家:他の蔵書を製本する時はどうします?表紙には今回と同じ紙を使った方がいいですか?

 

愛書家:それについては家でずいぶん考えましたが、蔵書の全部が同じ格好というのは好ましくないな、ということになりました。違いがあんまり甚だしいのはいけませんけれど、バラエティがあった方がいいと思うんです。例えばモノクロームの見返しに、カラフルな装飾紙を使った表紙とか。さて、半革製本の装丁方針についてはこれで合意ができましたね。
今日持って来たエッカーマンの『ゲーテとの対話』、これは半ヴェラム製本で(もちろん外から見えるヴェラムのコーネルはなしで)お願いします。ヒラには緑の製本用クロスを使ってください。すごくよく合うと思うんです。ところで、後日、版の違う本をこれと同じ装丁で製本していただくつもりなんですが、その際は今回製本していただいたものを持って来た方がいいですか?

 

製本家:いえ、それは必要ありません。私は上質製本の時は必ずひな形を作っておきますから、サイズや素材、色、素材のサンプルなどはそれを見れば分かります。ですから、同様の製本を簡単に作ることができるのです。

 

愛書家:それは理にかなってますね。では、また明日!

 

(愛書家が工房から出て行きかけると、製本家は作業を始める。愛書家は急いで振り返って尋ねる)

 

 

愛書家:いったい何をしているんです、マスター?その、家具屋が使いそうな道具で、本の小口をどうしようっていうんですか!そんなことして、本を傷つけませんか?

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製本家:その反対で、この道具は小口の助けになるものです。本をこうしてライイングプレスで固く締め付けて、このスクレイパーを使って、美しく金付けするための完璧に滑らかな小口面に仕上げるのです。ほとんど小口を削り取ることもありません。

tue5_scraper1 スクレイパー  tue6_scraper2 スクレイパー

 

愛書家:天金って、難しいんですか?

 

製本家:それはもう!まず小口を非常に慎重に揃えた上で研磨して、さらにペーストで磨いて鏡のような表面に仕上げなければなりません。特に中央がくぼんだ前小口では大変です。金箔の扱いにもコツが要ります。この金箔は非常に薄く、1枚ずつ薄紙で挟まれています。金箔を薄紙から慎重に持ち上げ、チョークの粉をまぶした革の上に置きます──チョークのおかげで革の脂分がなくなり、金箔が扱いやすくなるのです。ギルディングナイフで切り出した金箔を、あらかじめ特別な道具で卵白を塗っておいた本の小口に乗せます。それから、表面の金箔を残して余分な卵白だけが流れ落ちるように、プレスを傾けます。ご覧なさい!いま実演しますから。ほら、卵白は流れ落ちて、金箔はそのままです。これから数時間はプレスに挟んだままで置いておきますが、卵白が乾きすぎてもいけません。その次は小口を磨きます。まず軽くロウを塗った白紙を置いて、その上からこのメノウ棒で慎重に撫でます。それから紙をどけて、小口をメノウ棒で直接こすり、全体が均一に輝くようにします。

 

愛書家:ピカピカになるまで磨かないといけないんですか?

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製本家:必ずしもそうではありません。紙を挟んだままで磨けば、マットな仕上がりの金小口になります。

 

愛書家:僕はマット仕上げの方が好きですね。にぶい光も金の輝きなり[訳注:「輝けるもの必ずしも金ならず」という諺をもじっている]、ということを思い出させてくれますから。

原著は1922年『Der Pressbengel 』のタイトルでベルリンのEuphorion出版より刊行された。
2010年(c)Peter D. Verheyen翻訳

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