「The Bone folder” 第7回」
- <“ The Bone folder” ~ボーンフォルダー~ : 第7回>
AND A WELL-VERSED-IN-ALL-ASPECTS-OF-THE-CRAFT-BOOKBINDER
~書物の美に惹かれる愛書家とあらゆる製本技術に精通した製本家との対話~
金曜日:総革製本についての問答
愛書家:マスター、僕は幸せ者です!これを見てください、ハイネの『歌の本』初版ですよ!露天の本屋で見つけたんです。いくらしたと思います?たった20マルク半ですよ!本屋はこれがどんなに価値のあるものか知らなかったんです。まったく、貴重な本をこんな馬鹿げたお値段で手に入れられるなんて、本を発見するのと同じくらい愉快なことですね。で、発見のご褒美として、僕はこの本を総革製本(Franzband)にするつもりです。でも、今あるものは全部そのままで残しておいてほしいんです。小口も裁断しないで、ラフ・カットもなしです。紙の仮表紙も一緒に綴じ込んでください。あと、背表紙の部分も。
製本家:もちろん!こういう時は仮表紙を取り除かずに製本するのがよろしい。こうした稀少本の場合は特にね。仮表紙に美的な価値がある時にもそうします。もっとも、フランスの愛書家がやるように、全ての製本でそうするべきとは思いませんが。
愛書家:まったくです!それと、こんなに貴重な本ですから、綴じは本物のレイズドコードでお願いします。高級製本らしく、花布もちゃんと編んだものにしてください、よくあるけばけばしい貼り花布じゃなくて。

手編み花布の一例
愛書家:最近の製本でも手編み花布を見かけたことがありますよ。ある展覧会で、コブデン=サンダソンが作ったのと同じようなのを見ました。サンダソンは有名なイギリスのブックアート改革者で、弁護士から製本家に転身した人です。”本の美”に寄せた素晴らしい叙情詩も書いていますね。ところで花布って、今ではどんなふうに作られているんですか?
製本家:様式はさまざまですが、最も一般的なものをひとつご紹介しましょう。


平たい芯を使った手編み花布の一例
(背表紙ははずれている。
中央の緑の帯はしおりの端)
愛書家:手編み花布はすごく見栄えがいいですよね。こういう製本だとお値段は高くなりますか?
製本家:そうですね、ご承知の通り、革は昔に比べてずいぶん値上がりしました。総革製本となると作業工程も多くなります。革の四方やミゾ部分を漉かなければなりませんが、薄くしすぎてもいけません。革に糊を塗ると、柔らかくなってダメージを受け易くなるので、本にかぶせて折り返す時も慎重に取り扱わなければなりませんし、革のしぼを潰さないように注意も必要です。と同時に、ヘッドキャップと表紙のヒラ部分がきちんと水平になるように気をつけねばなりません。あなたのハイネ本にはどんな見返しを使いましょうか?装飾紙でも無地の紙でも使えますよ。このような総革製本では絹の見返しもよく使われます。
愛書家:絹は勘弁してださい。この本の見返しには、本文紙に近い黄色っぽい手漉き紙を使ってください。たまには無地の見返しの総革製本があったっていいじゃありませんか。それに手漉き紙は、手漉き紙であるということそれ自体によって既に高貴な素材です。あと、他の革装本で見かけるように、見返しは1枚きりじゃなく、何枚か足してください。
製本家:ふたつ折りの紙を2枚重ねた、イギリス式見返しのようにですね?表紙の装飾はどうします?
愛書家:それはまた明日お話ししてもいいでしょうか?今日はこの『神曲』の総ヴェラム製本もお願いしたくて。イタリアの本は絶対にヴェラム装がいいですね。ヴェラムはそのままで充分美しいものですから、装飾は無しで、細身のローマン体を使ったラベルだけ、背に貼ってください。
総ヴェラム張りの現代的製本
製本家:ひとつ提案させていただければ、このヴェラム装では前小口をヤップ型にしてはいかがですか。古いヴェラム製本にはよくある形です。前小口側で表紙のへりが長くなっていて、本体を保護する格好になります。何でしたら、本体を綴じるのにヴェラムの支持帯を使って、ノドの部分でだけ支持帯が外から見えるようにすることもできますよ。


ヤップ型の前小口。修復されているため、背と小口のみヴェラムが新しい。

ノド部分で外に出ているヴェラムの支持帯
愛書家:素晴らしい製本になるでしょうね!家に持って帰るのが待ち遠しいです。仕上がりはいつになります?
製本家:4週間ほど先でしょうか。
愛書家:え、製本って、そんなに時間がかかるんですか?
製本家:そんなことはありませんが、製本というのは、ただ作業すればいいというものではないのですよ。手を休めることも必要です。


たわんでしまった表紙ボード
愛書家:急かすつもりはありません。ただ、出来上がった本をこの手に取るのが待ち遠しくてしかたないんです。新しく製本された本を手にするのは、新しい瞬間の幕を開けるようなものですからね。
2010年(c)Peter D. Verheyen翻訳