レポートVol.36 IADA参加スロベニア視察参加(2)
IADA参加とスロベニア視察報告(2) 代表理事 板倉正子
これは、2010年5月27・28日、プラハで開かれたIADA(ドイツ語圏の人達の保存修復機関)のシンポジウムに参加し、その後スロベニアの友人(イエダルト女史、スロベニア国立文書館修復室長)に誘われるまま、首都リューブリアーナを訪ねた折の報告である。(2010年5月25日~6月4日まで) 5月27日(木) さて私達は、文書館新館をざっと見学すると、大急ぎでシンポジウムの会場である、プラハ国立美術館新館に向かった。 |
プラハ国立美術館新館 |
プラハ国立美術館旧館 |
受付は大勢の参加者でごった返していた。実行委員の人たちはなれない受付作業に手間取っているように見えた。特に同時通訳用のイヤフォンを受け取るブースは一杯の人たちで混雑し、私達はイヤフォンをもらえないまま会場に入らなくてはならなかった。「席についてください」といウアナウンスが流れると、ざわついた会場はすぐに静かになって、開会の挨拶が始まった。 IADAの会長(代理)の挨拶に始まり、会場である国立美術館の館長の挨拶と続いた。プログラムの一番目は「手稿本の細密画の科学分析」から始まった。レクチャーの時間も質問の時間も比較的たっぷりとってあったが、残念なことに質問は案外少なかった。レクチャーはチェコ語でなされたので、私たちを含めて、イヤフォンがいきわたらず、内容がつかめなった人が多かったのだろう。一つ目のレクチャーは予定より早く終わり、コーヒーブレイクになった。ロビーでは大勢の人たちがコーヒを飲みながら、知り合いとのおしゃべりに夢中で、喧騒といってもいいくらいのさわがしさである。 |
コーヒーブレイク ロビーの様子 |
IADA会場入り口のポスター |
IADA 会議の今回のテーマは‘Out of sight-Out of Mind?’。これは可視化できるものとできないもの、というような意味であろうか。修復工程の中で、経験的手作業で進められる部分と、保存化学による分析、検証を必要とする部分の双方を象徴した言葉、と私は受け取った。 プログラムは以下の通りである。(訳はざっとしたものです。ミスのある場合はご指摘下さい) 1 チェコ・ストラホフ修道院のバイブル写本の細密画の科学分析 2 チェコ州立文書館、保管庫内の空気汚染モニタリング 3 プラハ国立美術館所蔵の手稿と古い印刷物の保存と将来 とチェコの人達が、質問を含め各30分ずつ発表を行った。その後はそれぞれパワーポイントによる10分間の発表(5分間の質問タイムを含む)が、午後のコーヒーブレイクまで7題続いた。 1 アムステルダム王立美術館、6500点の近代美術品の保存と修復 (オランダ) 2 ワイアット(イギリスの建築家)の建築図面の保存修復、デジタル化と利用計画 (イギリス) 3 フィンランド国立文書館の状態調査、方法論と結果 (フィンランド) 4 デンマーク serveNIRによる紙資料コレクション査定のための状態の測定 (デンマーク) 5 イスラム文書(手稿)保存の方法 プライベートコレクション分析のための基金(イタリア) 6 ステンレスによる新しい保存箱の提案 (イギリス) 7 ロールタイプ大型地図の※Dowel –mount 方式について (オランダ) コーヒータイムの後は 1 フランス国立図書館所蔵、3Dシアターセット(シアターブック)オリジナルの保存と利用 (フランス) 2 紙資料の開放展示における保存について (デンマーク) 3 記録史料のデジタル化、1億5千5百万ユーロのプロジェクト (フィンランド) と多様な内容の発表がなされた。 資料保存の様々な側面を見せつけられ、また、それぞれの現場の苦悩と努力が明確になった。 国際シンポジウムでは、多くの国の人達と触れ合うことができ、自分達の抱えている問題点や心情を共有できること、が一番すばらしい点である。どの国に限らず悩みは似たようなもので、コーヒータイムやランチタイムのお喋りはある種の精神安定剤のようなものである。 |