レポートVol.29   フランス紙漉き体験記(5)

フランス紙漉き体験記(5)    (2008年9月8日~12日)

クリス(クラークソン)先生
先生の授業の特徴は、ありとあらゆるサンプルや現物見本、関連書籍など惜しみなく公開してくださることだ。
先生のお住まいのあるイギリス、オックスフォードから此処フランスのオングレームまで荷物を送ることは、パッキングの手間だけでも大変な労力なのに、しかも、14,5世紀の古版本などは大変貴重なもので、輸送にかかるリスクを考えると、持っていくことを躊躇しそうなものである。
たった10人の1週間のワークショップのために!
「どのような場合でも精一杯の最善を尽くす」これは、凡人が見習うべきであるが、なかなか真似のできないこと。この資質が、一流のゆえんなのだ。 また、技術や知識を出し惜しみしないで、参加者に与えられる点も、書物修復にかける先生の強い意志と志の高さを物語るものである。
1988年、イギリスのウエストディーンカレッジに先生をはじめてお訪ねしたとき、まだ修復の勉強を始めたばかりの私に、先生の製本作品やその他の資料をたくさん見せてくださり、ご自分の論文やその他の関連資料のコピーをお土産にいっぱい下さったことを思い出した。先生の情熱は20年前のあの時からまったく衰えてはいないことに、驚きと感銘を覚えた。

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綴葉装のデモンストレーションをする先生

 

report29_02 作業はそれぞれの段取りで
デボラ先生は修復家としてのキャリアも長く、沢山の現物を見てこられた経験も豊富なので、自分のサンプルについていち早くその構造や綴じを理解し、さっさと作業を始められた。ただ、理論的に理解することと、実際に作業をすることはやはり彼女にとっても別なようで、古典製本の綴じには苦戦のようだった。時々、「オー」とか「ワォ」とかにぎやかに奇声?を
発しながらの作業だった。彼女のお茶目さと、元気と、好奇心の強さはいつもみなの気持ちを大いに盛り上がらせた。

熱心なデボラ先生

 

スロベニアからの若き修復家のブランカは、じっくりと考え、何度もクリス先生に自分の理解している内 容に間違いがないか確かめていた。「クリス、私は頭が悪いので、ここの部分がどうなっているかわからないので、もう一度説明してもらえませんか」と納得がいくまで先生に質問をかさねる。
クリス先生はとても優しい声で、「ブランカ。君は決して頭が悪いなんて事はないよ。君は3人の子供のお母さん