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レポート

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 レポート55
 ■ 紙資料修復ワークショップ参加報告(1)       修復基礎 初級 嘉数周子  
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 2013年7月13日、エル・ライブラリー主催の「紙資料修復ワークショップ」に参加し、大阪市内にある工房レストアで、漉きはめ(すきはめ)と裏打ち(うらうち)、そして和綴じ(四ツ目綴じ)を体験した。以下はワークショップの参加報告である。

 今回体験したものは、いずれも修復の一工程で用いられる技法であること、またそれぞれが修復作業の流れの中でどこに位置するのかを当日のレジュメによって確認することができた。



和古書修復の工程

 はじめに修理前の損傷状況や寸法などの記録、紙質の調査などに基づいて修理方針を決定し、工程表を作成する。その後、丁数打ちや写真撮影を行いながら本紙・表紙・見返しを順次解体し、ドライクリーニングを行う。文字・落款の色には注意する。絵具・墨・落款がある場合にはドーサ液、ブタノール(アクリル系樹脂)などを資料に応じ定着させてにじみ止めを行う。汚れ・シミ・カビ等がある場合には純水による自然洗いで取り除く。塩素系酸素系の薬品を使用する必要がある場合には、作品への負担を最小限に抑え、純水で洗って必ず薬気を取り除く。このような準備作業の後に紙の修復をおこない、最後に仕立直し(製本)をおこなって終了する。(レジュメによる)

 破損・虫損等がある紙資料の修復方法は、(1)繕い(2)裏打ち(3)漉き繕い(4)漉きはめ※注などがある。
 繕い・裏打ちが伝統的な技法であるのに対して、漉き繕い・漉きはめは修復に取り入れられるようになってまだ数十年という新しい技法である。※注

(1) 虫穴の形よりも少し大きめに切りぬいた和紙のまわりの繊維を出し、それを本紙の裏から水で溶いた生麩糊(しょうふのり)で貼る方法
(2) 本紙の裏全面に薄い和紙を水で溶いた生麩糊で貼る方法
(3) 穴の部分だけに紙の繊維を流して補填する方法
(4) 本紙を紙漉きの簀に載せて紙漉きと同じように漉き、早く繊維の液を流すことで主に虫損部分だけに紙の繊維が残って補填する方法


 当日は漉きはめ、裏打ち、和綴じの順で進められた。漉きはめの方法は工房によって異なっており、以下に記すものは工房_レストアで行われている方法である。

1. 漉きはめ (漉嵌(すきばめ)・リーフキャスティングともいう)

(特 徴)

糊を使わずに繕いと裏打ちを一度の工程で行う技法。糊を使って貼る裏打ちに比べてしなやかで厚みの変化もほとんどないため、両面に記録のあるものや巻子本にも使用できる。

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(材 料)

紙の原料:和紙漉きの原料と同じ、楮・三椏・雁皮の繊維を細かく砕いて充填できるようにしたもの。外国産は国産に比べて安価だが、後に変色する場合があるため国産を使用している。原料の種類は資料によって使い分け、生成のものに漂白したものを加えて修復する紙の色に近づける。この繊維を蒸留水で溶き、和紙漉き用より薄めの液をつくる。

漉き簾:和紙漉きに使用するものより目の粗いものを用い、上に布を置いて使用する。

養生用のレーヨン紙、刷毛
レポート55_01
紙の原料生成
レポート55_02
生成と漂白
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(手 順)

  1. 霧吹きで水を吹き、刷毛を使いながらレーヨン紙・裏を向けた資料・レーヨン紙と重ね、濡れたレーヨン紙で挟んだ状態で資料の折り目や皺をのばしていく。レーヨン紙は強いので作業によって破れることはなく、資料を刷毛の摩擦からも守る。
  2. 裏返して上側のレーヨン紙をはがした後、漉き簾に布を敷いたところに資料の面を下に載せる。そして資料の裏面に当たっているレーヨン紙をはがす。これで簾の上に布、その上に裏向けの資料が残る。
  3. 漉きの機械の上に載せ、繊維を梳いた液をまず資料のまわりに流して固定させ、その後に全体に流しいれる。液を直接資料の上にかけず、手をクッション替わりにする。
  4. 紙漉きと同じように資料と液が入った漉きはめ台を3〜4回前後に振ってから余分な液を排出する。台の下部にはバキュームがついているため、水は虫穴を通下し、繊維が布の上に残ることで補填される。
  5. スリットバキュームという機械にかけて再度余分な水分を取る。
  6. レポート55_03
    繊維液を流しいれる
    レポート55_04
    漉きはめ
  7. 簾ごと棚に載せて一昼夜自然乾燥させる。今回は機械乾燥で時間内に仕上げて頂いた。

    (修復工程では、この後、原本通りに裏打ちの余白部分を化粧裁ちして製本作業を行う)
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漉きはめは1956年サルティコフ・シチェドリン図書館(現ロシア国民図書館)で基礎となる機械が開発されたとされる。60年代に入り、修復技法としてヨーロッパやアメリカで各々独自に研究開発がすすめられるようになった。日本では1975年に増田勝彦氏がブルガリアやイスラエルの吸引式リーフキャクティングを紹介し、これを和紙修復に応用する開発を行ったことに始まる。80年代には坂本勇氏によりデンマークの水頭圧式リーフキャスティングが紹介され、以後、諸外国の様式を元に研究機関や修復工房などで独自に改良が加えられて今日に至っている。現在では和紙のみならず漢籍(竹紙)資料や酸性化した洋紙にも漉きはめが用いられ、明治期の新聞や古いポスターなど近代資料の修復にも広く取り入れられている。(近代資料の修復への流用については後述)

参考文献

  • 元興寺文化財研究所. 文化財の保存・修復の半世紀 : 元興寺文化財研究所創立45周年記念. 元興寺 ; 元興寺文化財研究所, 2012, 57p.
  • 木田章義. 図書館と本と補修. 静脩 : 京都大学図書館機構報, 2007, vol.44, no.2, p.1-4.
  • 増田勝彦. 漉嵌機の和紙修復への応用. 保存科学. 東京国立文化財研究所, 1976, no.15, p.102-105
  • 増田勝彦. 漉嵌機の和紙修復への応用(速報2). 表具の科学 : 特別研究「軸装等の保存及び修復技術に関する科学的研究」報告書. 東京国立文化財研究所, 1977, p.150-154
  • 有友至 ; 中島郁子 ; 阿久津智広. リーフキャスティングによる脆弱化した資料の修復. アーカイブズ, 2010, no.39 , p68-74




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