HOME>レポート>レポート30 | |
|
レポート30 |
■株式会社渋谷文泉閣 製本工場見学レポート 修復本科 栗田衣里子 |
製本には大きく分けて上製本(ハードカバー)と並製本(ソフトカバー)の二種類があり、それぞれ丸背と角背の二種類がある。また、糸綴じと無線綴じ(接着剤のみで固めてある)がある。 |
|
クータバインディング |
|
丸背上製本のクータは一般的に背幅と同寸で作られるが、渋谷文泉閣が開発したクータバインディングでは、背幅よりも5mmほどずつ両側へ広いクータが用いられている(写真1)。 クータを予め作成し、その後表紙カバーへ貼り付けるという工程で製本されていた。機械にクータとなる紙と表紙カバーがセットされ、一瞬で表紙カバーに貼り付けられたクータが出来上がる(写真2)。このようにして出来上がった表紙は、次の工程へ送られ、表紙カバーと本体が結合される。 |
【写真1】 |
クータバインディングでは現在製本業界で主に用いられているホットメルトという接着剤ではなく、PURという新しい接着剤を使っている。このPURこそがクータバインディングの開発を成功へと導いた秘密である。 |
【写真2】クータの部分が分かりやすいように点線が引いてあります |
PUR |
|
現在、製本に用いられている接着剤はEVA系のホットメルトが一般的である。この接着剤は40℃以上になると溶解したり、印刷インクの溶剤の影響でページが外れてしまうなどの欠点が指摘されている。しかし、新型接着剤PUR(ポリウレタンリアクティブ)の耐熱性は−30〜120℃と幅広く、高気温でも接着剤が溶け出してページが外れることはないという。さらに、柔軟性が高く、インク溶剤にも強いなど、これまでの接着剤の欠点を充分に補える優れた性質を持っている。 | |
また、リサイクル過程で完全に除去できるため、環境にも優しいということである。このようなPURの特性は、本の開きを良くし、背の接着剤が劣化して本がバラバラになることを防ぐことが可能となる。PURは接着時間が温度・湿度に左右されるため、温・湿度のコントロールが不可欠である。そのため、工場の天井には蒸気の噴出口があり、湿度が60%以下になると自動的に蒸気が噴出されるようになっていた(写真3)。 | 【写真3】 |
これまでも背に背幅よりも少し広い紙を貼り、紙の両端で表紙と接着している広開本といわれるものはあったが、これは紙の両端のみに接着剤で貼っているため強度は充分であるとは言えなかった。それに対し、クータバインディングではクータ全体が接着面となるため、強度が上がる。また、従来の接着剤は厚く塗るため本の開きがあまりよくなかったが、PURの特徴である柔軟性によって、その問題も解消できている。 今回、渋谷文泉閣を見学させていただいて、最も驚いたのは機械の動きの速さであるが、各工程で必ず人の目で細かにチェックが行われていることも印象的であった。また、コストが多少かかってもクータバインディングやPURなどの傷みにくく、どんな人にも利用しやすい(構造的に)良い本を作ろうという渋谷文泉閣の高い志が感じられた。 最後に、お忙しいところ私達の見学を快く受けいれてくださった渋谷文泉閣の皆様に心よりお礼申し上げます。
|
*********************** 『株式会社渋谷文泉閣』ホームページ http://www.bunsenkaku.co.jp/ *********************** |
←前のレポート | | | 次のレポート→ |
このページの先頭へ ▲ |
Copyright(C) 2004
書物の歴史と保存修復に関する研究会.All rights reserved. No reproduction or republication without written permission. 当ホームページに掲載の文章・画像・写真等すべてのコンテンツの無断複写・転載を禁じます。 |