HOME>レポート>レポート38 | |
|
レポート38 |
■ ドイツ出張報告: <2010年12月14日〜24日> 代表理事 板倉正子 |
ルフトハンザ航空、フランクフルト、シュトットガルト 修復用革の買付けと、オッフェンバッハ革博物館訪問。 同行は、本科講師、修復主任の佐々木麻美。 ◇ 12月15日(水) <オッフェンバッハ 革博物館訪問> |
|
オッフェンバッハはドイツ、ヘス州(Hesse, Germany)にある町で人口は12万人弱、マイン川の西側に位置しています。ブックフェアーで有名なフランクフルトの中央駅からSバーン(近郊列車)で30分足らずの所にあります。1970年代頃まで皮革産業の中心都市として栄え、その後産業は、人件費の安い上海などへ流出し、現在は革博物館が残るのみです。しかし現在でも年2回、国際レザーフェアーが開かれるなど、皮革産業都市としての伝統的地位を保っています。 オッフェンバッハの町が文献に現れるのは977年、17世紀にはフランスの新教徒(ユグノー派キリスト教徒)が多く流入し、その後の産業、商業の発展に寄与したといわれています。又そのため、オッフェンバッハの町はフランクフルトの町より国際的で、有名なゲーテやモーツアルトもこの町を好み数回訪れたといわれています。 |
|
革博物館の建物 |
革博物館(Deutsches Ledermuseum)は1917年、ヒューゴ・エバルハルト(Hugo Eberhardt)により設立された、世界でも有数の専門博物館です。およそ、3000年間の人類の歴史における、ありとあらゆる種類の革に関する民族学的、人類学的文物、約 4万点 を所蔵しています。残念ながら現在は改装のため休館中で、 ミュージアムショップと貸し展示室のみが開かれており、オープンは2011年秋頃とのことです。 ご記憶にある方もいらっしゃると思いますが、1986年、梅田大丸ミュージアム(大阪)でこの博物館の展覧会が催されました。私はその折、製本の関係で少しばかり会場のお手伝いをしたことがあり、この博物館を一度は訪れてみたいと思っていました。フランクフルトからとても近い、ということを最近知り、今回、訪問の運びとなりました。 |
最近、大学図書館を悩ませている、革装本の激しい傷み=革の劣化(レッドロットといわれる、革が粉状になって剥がれ落ちる現象)への対策について、最新の情報や、製本用革についての詳しい知識などを頂くべく、訪問を決定しました。 まず手始めにこちらの要望を記した正式な依頼状を出しておいたところ、研究員のユッタさん (Ms.Jutta)から丁寧な承諾のメールをいただき、訪問日時は12月15日2時に決まりました。 当日、私たちの訪問は約束の時間より1時間ほど早めでしたが、ユッタさんと助手のニーナさん(Ms.Nina)が快く迎えてくれました。 |
|
博物館前庭のオブジェ |
まず最初に私達は、革のレッドロット対策について尋ねました。ユッタさんの答えは、現在広く行われるようになってきたクルーセルGの塗布でした。 クルーセルGは食品や化粧品にも使われているセルロースの一種で、低い温度のエタノールに溶解することが出来ます。以前はレザードレッシング(保革由)が一般に使用されてきましたが、革の酸化を促進するなどの理由で、現在はあまり推奨できないとのことです。 (レザードレッシングやクルーセルGの使用は専門分野に属する作業なので、ここでは深くは触れず、別の機会に詳細を述べます。) |
|
ユッタ女史 |
革の劣化に関しては、素材となる動物の種類、なめしの方法、なめし剤の種類など中々一筋縄ではいかない難しい問題です。現在、書物修復の世界ではこの問題は顕在化してきたばかりで、対応は日が浅く、むしろ博物館の修復に携わる人たちの間での研究の方が進んでいる、とのことで、彼女は、ICOM(1946年設立の博物館関係の人たちのネットワーク)メンバーの中の特に革について研究している人たちを紹介してくださったのでした。 参考文献や役立つ道具等についてひとしきり話した後、私達は持参していた革の標本(最近手がけた明治期の日本の聖書・背革、コーネル装)の革の種類を調べていただくことにしました。ユッタさんはすぐさま顕微鏡を覗きこみ、丹念に調べてくださいました。この結果は、牛でも山羊でも鹿でもない、とのことでした。私達は鹿ではないか? と予想していましたが、予想ははずれました。結局のところ、断定は出来ないのですが、野生の豚 (猪?)ではないか、との推測でした。というのは、豚革の特徴である、三つ一組の毛穴が認められたからです。 もし、猪であるなら、大変興味深いことです。この件は今後も調査を続けます。 |
その後私達は修復室に案内され、現在修復中の、中世ヨーロッパの革製衣服や、馬の鞍、それも戦闘用の立って乗るための盾を兼ねた鞍(木製の型にパーチメントを被せたもの)など大変珍しいものを見せていただくことが出来ました。 又、改装中の展示室もざっと見せていただくことが出来ました。イヌイット族の衣服からナポレオンの革製文具にいたるまで、民族学的資料から芸術品まで、4万点を越えるという所蔵品は膨大なものでした。こんなに多様な革製品を修復することに比べたら、私たちの革装本の修復なんて、本当に易しい部類だなと感じました。 さて最後に、私が大阪での展示会の話をすると、ヨッタさんは、「私もあの時日本に行きました」とおっしゃって、「大阪の人権博物館や、甲州印伝の製作現場も訪ねました。とても良い思い出です」と当時を懐かしまれました。 今年、革博物館が改装を追え、再オープンしたら、又近いうちに訪ね、4万点の革の文物を、今度はじっくりと見てみたい、と思っています。 www.ledermuseum.de/ |
|
明礬なめしの白革で出来た衣服 | 文 板倉正子 写真撮影 佐々木麻美 |
←前のレポート | | | 次のレポート→ |
このページの先頭へ ▲ |
Copyright(C) 2004
書物の歴史と保存修復に関する研究会.All rights reserved. No reproduction or republication without written permission. 当ホームページに掲載の文章・画像・写真等すべてのコンテンツの無断複写・転載を禁じます。 |