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レポート

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 レポート07
 ■ドイツ出張報告 2005.11 (06,11月21日〜11月26日・板倉)
ライン


21日

 午前9時20分関空発、同日午後5時10分ドイツフランクフルト着(時差は7時間)
1ユーロ換金148円はかなりな痛手。とりあえず TC(143円)に換える。
 列車でシュトットガルトへ1時間余り。2名往復で168ユーロ。1年間有効のバーンカード50ユーロを買うと、1名分は25%引きで二人目はただ?とか。とにかく正規運賃2名分より安いとのこと。このあたり親切に教えてくれるところ、わが国とは大違い。
 駅近くのホテルへ午後9時着。ちなみにホテルは直近のディスカウントで、2名4泊260ユーロ。朝食つき。ニューヨークのホテルの1泊分の値段。40部屋ほどの小さなホテル、というよりはドイツ風旅館。エレベーターがあってほっとする。

22日

 翌朝8時起床。こじんまりとしたダイニングに行くと他の泊り客がチラホラ。
朝1番にコーヒーがいただけるのはうれしいかぎり。コーヒーは修復家のガソリン。
 朝食は2種類のパン、シリアル、数種類のチーズとハム。果物、ヨーグルト、ミルク、コーヒー、紅茶とジュース。となかなかリッチ。感激!
 9時半、革商のホフマン氏に電話をかける。今回はアポなしだったが氏は、「昨日オランダの製本フェアーから帰ってきたばかり、店は散らかっているけど、11時に来てもいいよ」といってくれた。
 ホフマン氏を訪ねる。前回(04年1月)はなんだか元気がなく、引退をほのめかしていたが、今回は元気そう。昨年は愛犬が天国へ行ったのでさびしかったようだ。
 修復用の革(主に牛革)を買う。今年はドイツの図書館が予算余りとかで大量の革が買い上げられたとのこと。少々品薄。  氏に、シュトットガルトの美術大学に最近出来た、「書物と紙の修復科」の教授パタキ女史を紹介される。氏はすぐに彼女に電話をかけて、翌日23日午後2時の見学の約束を取り付けてくれた。
 時差ぼけ、という現象を日ごろ余り意識していないが、この日はとても疲れて、午後は何もせずどこへもいけず眠り込んでしまった。

23日

 午前9時、もう1軒の革商、マルチン氏に電話をかける。こちらは午後から訪問の約束であったが、美術学校への訪問が午後になったので、約束の時間を午前に変えてもらわなくてはならない。
彼は最近やっとeメールを始めたので、事前にアポがとれていた。午前中に彼の元へ出かける。時間は限られているので、フルに動き回らなくてはならない。
彼とはもう20年近くの付き合いになり、まったく英語を話さない事務員さんもずーと同じ女性だ。修復用牛革、製本用ヤギ革、革すき道具などを買う。
 革は1種類ずつ巻かれている。それをいちいち広げてもらい、その中から、大きさや肌理のそろい方、手触り、色むらなどをチェックしながら選んでいくので、半日仕事になる。


マルチン氏のお店 ” Anton Graser” の店内


 革を選びながら、最近の修復界の状況や、スイスの学校の先生の移動など、様々な情報を聞くのも重要な仕事だ。
 日本では、革の輸入には以前60%の関税がかけられていた。その後45%になり、そのうち15%になるということだったが、現在の事情は把握していない。関税は卸価格にかけられるが、その上に消費税をかけられるので、1頭分の革は恐ろしい値段になる。
 さて、事前にマルチン氏にドイツの学校図書館の見学について手配を頼んでみたが、彼の話では「ドイツの小、中学校には図書館がない」とのこと。?
この件いついてはまだ詳細は得ていない。
 彼はその代わりに、州立図書館の修復室を訪ねるようアドバイスしてくれた。
というような事情で「ドイツの学校図書館での小規模修理などを視察する予定」はやむなく変更となった。
 彼はその他にも、「23,24日はクリスマスマーケットがある」と教えてくれた。シュトットガルトで一番小さなビールの醸造所レストランのことを教えてくれたのも彼である。
午後から美術学校にパタキ女史を訪ねる
 紹介された美術学校は Staatliche Akademie der Bildenden Kunste Stuttgart といって、設立は第2次大戦後だそうだが、1997年より、製本と紙の修復科が新設されている。
 見学した印象によると、製本の修復の方はいかにもまだ日が浅い、といった感を受けたが、紙の修復に関してのレベルは非常に高そうだ。設備も充実しているし、保存科学に関してもしっかりとした授業がなされているようだ。
 プログラムは5年で毎年2,3名の生徒しか受け入れていないそうだ。それも、図書館などで1年の勤務経験と、ある程度技術のある生徒に限るらしい。
 “Staatliche”とは町立の意味と思えるが、少人数にあれだけの設備を整えているところ、行政の教育にかける予算の大きさにドイツの底力を見た気がした。
 パタキ女史は、ハンガリア人で、9年間の様々なところでの技術習得、研修期間を経てこの科を教えているとのこと。また彼女は2年に1度アスコナの修復学校でも特別授業を持っているそうだ。
書物に限らず修復の世界はまだ新しい分野なので、技術や知識を学ぶシステムがどこの国でも整っていない。
 ドイツでは、製本に関しては他の技術職と同じようにマイスター制度が古くからあるが、修復に関しては、欧米の製本学校や図書館勤務でキャリアを磨きながら自分の道を探っていく、というのが一般的な道筋のようだ。


学校の詳細はhttp://www.abk-stuttgart.de


24日

 気温は零下4度。夕べの雨が雪に変わり、窓からの景色はうっすらと雪化粧。州立図書館へ行く。
www.wlb-stuttgart.de/
Wuerttembergischen Landesbibliothek Stuttgart

 道のりは地下鉄で2駅だったが、歩くと中央駅から15分ほどだった。
 ドイツらしい古い重厚な建物を予想していたが近代的な建物でちょっと拍子抜けした。
 地下では、日本でもよく知られている絵本作家、エリック・カールの展示会をしていた。平日だったが利用者は非常に多く、図書館が市民に充分活用されている様子が伺えた。
 まったくのアポなしだったが受付で修復室を見学したい旨を話す。受付の若い女性は修復室を統括するという、トロースト女史に取り次いでくれようとしたが、その人は在室していなかった。
 しばらく待っていると、偶然通りかかったトロースト女史をさっきの受付の若い女性が見つけ、私を紹介してくれた。
 女史は、「今日は予定が詰まっているが、明日九時半になら時間が取れます。」と約束してくれた。明日はもう帰国の途につく日だが、幸い飛行機は夜の7時なので空港までの時間を考慮しても午前中はたっぷりと時間が取れる。大方の予定は一応クリアしたことになる。
 一安心。図書館のカフェでゆっくりとお茶をしてエリック・カールの展示を見る。
図書館の壁にはおそらく旧館からの移築であろうと思われるレリーフがはめ込んである。
グーテンベルグだろうか?
 この図書館は、グーテンベルグの四十二行聖書(世界で最初の活版印刷本1455年刊)の完本を所蔵していることで有名だ。
 グーテンベルグの四十二行聖書についてはウエブに、読物として大変興味深いページがあるので参考に。
www4.ocn.ne.jp/~hisanaga/gutenberg.htm


図書館のレリーフ


 図書館の中にコンピューターを使えるブースが目に付いた。メールのチェックが出来ればと思いインフォメーションで使い方を教えてもらう。
 まずパスポートを提示し、所定の用紙に書き込むと登録が済み、図書館カードを作ってもらえる。受付デスクで最初のIDとパスワードをもらい画面に打ち込むとログインできる。
 PCは6台有り一回に一人45分間使える。幸いブースはそれほど込んではおらずアキがあった。
 ドイツにきてから駅のネットカフェでメールチェックを試みたが、日本語には対応しておらず、文字化けになってしまい、使えなかった。
 図書館のコンピューターは読むだけは日本語にも対応しており、充分役に立った。しかもうれしいことに無料。急ぐ分だけローマ字で短い返事を書いて送る。
 ホテルへ帰るとホフマン氏から革代金の明細がFAXで届いていた。22日は彼の事務員が休みとかで、明細をもらっていなかった。金額は大体の予定通り。OK の電話を入れると、夕方ホテルへ革を届けてくれた。
 夜、全部の革を布製のスーツケースに詰めると、思ったよりすっきりと収まった。重さも何とか持てそう。
 ほっとして少し元気が出たので、駅前の王様通りへクリスマスマーケットを見に出かけた。焼きソーセージを食べ、あったかい赤ワインを飲んで、ドイツのクリスマスをほんの少しだけ味わった。

25日

 前夜パッキングしたスーツケースをとりあえずホテルに預けてチェックアウトを済ませ、早めに図書館へ向かう。
雪がチラチラと舞うどんよりとした冬空に、伸びやかに枝を広げた大きな大きな樫の木が、子供の頃読んだおとぎ話の世界と、現在の時間に不思議な連携を感じさせる。
トロ−スト女史は約束通り9時半に私たちを迎えてくれ、修復室へ案内してくれた。来年定年なるという修復担当のシュースター氏は40年の経歴で、まさに書物修復の匠である。  彼はまったく英語を話さないので、トロースト女史が通訳をしてくれた。
 彼は現在かかっている木製表紙の書物の、綴じなおしているところ、表紙の木を修復しているところ、表紙革の欠損部分をどのように補填するかなど、実演を交えて見せてくれた。


 初対面の人と仕事を通じてすぐ仲良しになれる。どこの国の図書館や工房を訪ねても、確かな意思疎通の感覚を持てることは、仕事から得られる二つ目の大きな喜びである。
シュースター氏は、リーフキャスター(紙を漉く装置)や、革を削る機械(歯医者さんのドリルを転用)等を見せてくれた。
 トロースト女史によると、残念なことにシュースター氏の後任は決まっておらず、当局は修復の予算をだんだんに減らしているらしい。
 予算を獲得することは、どの図書館人にとっても難しい課題のようだ。
 修復室から出ると、外は吹雪になっていた。「飛行機が飛ばないかもよ。」などとトロ−スト女史に冗談交じりに脅かされながら、私たちは丁寧にお礼を言って、図書館を後にした。
 大事をとって早めに駅へ行くと、予定の列車がホームに入っていない。駅員の話では、雪でダイヤが乱れているとのこと。とても心配したが何とか列車にも乗れて、飛行機も無事離陸した。

26日

 午後8時関空着、仕事場でメールをチェックし、翌日の講座の準備をして帰宅したのは午前2時だった。


シュースター氏ご自慢のドリル



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